ある日の午前、ソファに寝転がりオリンピック中継を見ていたら、ゆうさんから携帯に電話がかかって来た。夕方から夜にかけてはよくあることだが、この時間の電話はめずらしい。
話があるから私の地元の代々木で昼メシでも食べようてことになった。焼魚定食を2人で注文して私はそれに生ビールをつけた。昼間に会うゆうさんは何かスッキリして少し若返った感じだ。無精髭も剃って鼻髭をたくわえている。老いらくの恋が順調なのか?
「実はまた小説を書こうと思ってね」
「ほう、いいんじゃない。桜丸あきらの本がまた読めるわけだ」
「それで、君から上原に話をしてくれ」
「そんな事自分で言いなよ、ゆうさん。俺なんかより余程長い知り合いじゃないか」
「……」 嫌なことには黙りこくってしまう。年寄りのゆうさんの悪い癖だ。私は生ビールを追加した。
「そんな事ぐらい自分で言いなさい!子供じゃないんだから。連絡先は知ってるんだろ?」
「知らない」
ぶすっと言う。
「俺は一度呑んだぐらいの仲だよ、上原さんとは。どんな心境の変化でまた小説を書く気になったか知らないが。自分の仕事のことなんだから自分でしなさいよ」私はちょっと意地悪気に言った。
そしたら「ここの飯代、俺が払う」という。
「当たり前じゃん!こっちはオリンピックをテレビで見てるところを呼び出されたんだから。で、なんでまた小説書く気になったの?」
「…金がいるんだ」
「金?ゆうさんらしくないな。生臭くて」
「上原に言ってくれ」私の顔をジイッと見て言うゆうさん。定食にあまり箸をつけてない。
「なんだ、そんなへびのような気持ち悪い目で見て!わかったよ!話をしてみる。だけど後はー」
言い終わらないうちに、「そうか!頼む。勘定払っとくから、それじゃ」と言って、店から出て行こうとする。
「オイオイゆうさん!ちょっと待てよ。ビールもうひとつ注文するんだよ!」
ゆうさんは勘定払って急いで店から出て行った。